まだまだ暑い京都です。ここ数日、京都は真夜中も29℃、28℃の熱帯夜が続きました。猛暑日は金曜日まで続くようです。
さて、9月19日は年2回行われている平安神宮神苑の無料公開日です。それにちなんで、今回の投稿は川端康成の『古都』の中の平安神宮神苑と共に、平安神宮神苑をご紹介させていただきます。
川端康成『古都』
川端康成は『古都』を連載する前(昭和35年4月)「娘である真紗子さんと平安神宮で紅枝垂を見て,美術舘に寄り,円山公園を抜けて清水寺まで行った」と河野仁昭の『川端康成 内なる古都』で書かれいます。
ある意味での小説の構成のための下見でしょうか。川端康成は『古都』で千重子と真一の待ち合わせ場所を平安神宮神苑にして、そのまま歩いて清水寺まで行かせます。
『古都』は春の千重子の家から始まり、冬の家の外(ベンガラ格子)で終わります。
千重子の家は典型的な京町屋であり、千重子は家の畳か廊下から中庭の大きな紅葉の木のくぼみで宿っているすみれの花を見て春と出会うのです。そしてその紅葉の下には灯篭がおいてあり、その隣のことかにある壷の中には鈴虫が生きています。
京都の昔の町は少しでも面積をとるため隣の家との隙間が殆どありません。そして鰻の形とも言われるように奥長いのであり、玄関から通り庭を過ぎ奥の蔵まで繋がります。
千重子は自分が捨て子ということであまり自分の意見を強いて話せず両親に服従な態度を持ていますが、その分…内面は複雑で暗い一面があります。そして「あり過ぎて、困るみたい」の自分の感情を抑える千重子の内面はぎっしり密集している町、そして奥深くまで続けるその内部の通路とも繋がっているようにも感じます。
『古都』はこのような京町屋から広々した平安神宮の心を癒せる大自然に空間を広げて…そして京町の展望ができる夕暮れの清水寺に移し、「捨子」という千重子の告白に至ります。
平安神宮 神苑
平安遷都1100年を記念して創建された平安神宮。平安神宮の大きな鳥居には誰もが圧倒されます。
一方、桜と鳥居のコラボは春だけの楽しみでもあります。
時代祭りでも親しまれている平安神宮には琵琶湖疏水から引き込まれていて、「ミニ琵琶湖」と呼ばれる池を含む1万坪という規模の神苑があります。
その神苑の春を飾るのが桜。谷崎潤一郎は「細雪」で、川端康成は『古都』で春の平安神宮神苑を作品の中に入れています。
みごとなのは神苑をいろどる、紅しだれ桜の群れである。今は「まごとに、ここの花をおいて、京洛の春を代表するものはないと言ってよい」 (『古都』、新潮文庫)
神苑の案内図。桜の木で埋められているように見えます。入口を通ると目に広がる遥か紫のしだれ桜が迎えてくれます。
平安神宮神苑の見どころ
日本最古の路面電車
明治四十四年に製造された現存する国内最古の路面電車です。廃線となった北野線の様子が『古都』でも書かれています。
2025年中の無料公開に向け、10月までクラウドファンディングなどで寄付を募っています。
臥龍橋
天正年間に豊臣秀吉が造営した三条大橋と五条大橋の橋脚の石材を使った飛び石です。
川端康成の『古都』にも描かれている臥龍橋は中神苑にあります。
平安の苑
八重紅枝垂れ桜の名所。夏は紫陽花も綺麗です。源氏物語や枕草子などに登場する草木が多く植えられています。南神苑にあります。
澄心亭
臥龍橋と同じく川端康成の『古都』に描かれています。中に入る事はできません。
花しょうぶの名勝。西神苑にあります。
太平閣
川端康成の『古都』により詳しく描かれている場所でもあります。人が少ない季節だと独り占めでゆっくりできます。
泰平閣&『古都』
このように、『古都』で真一と千重子のゆったりとした時間が流れる…泰平閣のシーンで浮かぶ詩があります。
古賀春江さんの『朗らかな春』という詩です。
古賀春江・ 『朗らかな春』
春は光線が膨らんで物体がみんな楕円形になる
おたまじゃくしを見にいきませう
明るい水の中でのんきな栄華の夢を見てゐる所を。
金の喇叭を赤い紐で胸にかけてゐる村童は春の可愛い天使です。
魚は腹を仰向けて空の鳥等と日向で遊ぶし
川辺のスミレは人間を神様のやうに思ひ
人間はスミレを真珠と見る。
桃色のカアテンの向うで野原の娘が
神話のランプに火をつける。
僧家に生まれ,仏教学校(大正大学)出身でありながら西洋風の理論を受入れ独自の世界を作り出した古賀春江はパウル・クレー風の絵を経て『海』により新たな展開を迎えるが、『海』を描いた前年から、彼の神経が破綻してしまい、1933年38歳の生を閉じるようになります。
川端康成と知り合ったの1931年なので伴った時間は二年も足りないものでありましたが,その交友は深く川端康成は古賀春江の最後を見守っていたといいます。(川端康成の『末期の眼』にはその古賀春江に対する思いがより詳しく書かれています)
『朗らかな春』は古賀春江のクレー風の水彩画『朗らかな春』(1930年)に古賀自身がつけた詩で、「詩才を有力な資本とした画家」とも言われた古賀春江が,詩想を意欲的に絵画のモチーフにしたのは,いわゆるクレー風の時代以降である(中野嘉一,『古賀春江』1977)といいます。
『古都』の第1話は「花くもりぎみの,やわらかい春の日であった」で終わります。ここで「花くもりぎみの」日は千重子が始めてスミレを見つけた日であり,千重子が恒例のようにスミレから「春のやさしさ」と出会ったあの日は「自然の生命のいっせいにふくらむ春の日(『古都』3回,昭和36年10月10日」…まさに「春の静かな光線が膨らんで物体がみんな楕円形になる」日で言ってもいいかもしれません。
そう言えば、「冴えた顔で」「明るい水の中でのんきな栄華の夢を見てゐる」真一は川端自身でもあり,そこで彼は「明るい水の中でのんきな栄華の夢を見てゐ」たのではないでしょうか。
平安神宮神苑・無料公開
平安神宮神苑は初夏と秋の年2回、無料公開が行われいます。
✅6月7日
✅9月19日
6月は花しょうぶを含めカキツバタを楽しめる事ができますので、6月がおすすめです。
平安神宮・御朱印
平安神宮で御朱印をいただける場所は入り口から近くにあります。平安神宮の御朱印は記入可能です。無料公開限定御朱印である花しょうぶの御朱印は書置きのみでした。両方とも500円です。
平安神宮神苑無料公開限定御朱印(20230613)
平安神宮神苑無料公開限定御朱印(20240919)
9月19日無料公開日限定の御朱印になります。朱印料は500円です。
まとめ
平安神宮神苑、いかがでしたか?春は桜、夏は紫陽花と花しょうぶ、風鈴まつり、秋は紅葉、冬は冬なりの落ち着いた風景が楽しめる平安神宮神苑。人盛りの表からそっと離れたい時、京都に行かれる際、平安神宮神苑にも足を運んでみたらいかがですか?