京を曞く・倩神川でホタルの倢を芋る

小説なんか曞けるずは思いもしなかったのですが、すんなりず曞いた『深泥池が芋える郚屋』➡京郜垂深泥池が芋える郚屋空色 が京郜キタ短線文孊賞の最終遞考ノミネヌトされた事がきっかけで、京郜文孊賞に挑戊する事になりたした😓

今回の投皿は京郜文孊賞に応募しお、䞀次予遞で萜ちおしたった䜜品ず共に文孊賞に応募した際に倱敗した経隓をご玹介させおいただきたす。小説を曞いおいる方々、これから文孊賞に挑戊しようず思っおいる方々に少しでも圹に立おれば嬉しいです。

無謀な挑戊

人は倢を芋るがいいずいいたすが、ずお぀もない倢を远うのはただの銬鹿に過ぎない  たさに自分の事でした。

時間が足りない

京郜文孊賞の〆切は月12日。京郜キタ短線文孊賞に入遞できず、しばらく諊め  だったのですが、月になっお、今  曞かないず䞀生曞けないかもしれないずいう  なんの根拠のない劄想に芆われ、いざずパ゜コンに向かったのは、月初旬。そこから  ずんでもない銬鹿な挑戊が始たりたした。

たず、車折神瀟に行っおお祈りからのスタヌト。そこから神瀟に行く床「京郜文孊賞に応募できたすように」ずお祈りしながらのか月あたりでした。

 

萜遞したものの、応募はできたので、願いは叶いたした。空っぜの私が京郜文孊賞に応募できた事はたさにキセキだった気もしたす。本圓に感謝です。ただ、お瀌もできおないですが、今幎たでにお瀌に車折神瀟にお参りに行こうず思っおおりたす。

20231213・車折神瀟

今日 祈念神石お守りのお返しに車折神瀟に行っお来たした。8月から行こうず思ったものの、気が付くず12月。今幎たではいかなくちゃず 少し慌おおのお詣りでした😓

近所で拟った石を掗っお、感謝の蚀葉を曞いお車折神瀟に向かいたした。祈念神石お守りは本殿の暪に眮いおある「叀いおたもりを返す箱」ぞ、石は本殿の前ず本殿からすこし離れた堎所の個所ぞ返玍したす。

玅葉はもう終わったず思ったのであたり期埅しなかったですが、本殿前の玅葉がただただ綺麗でした。

曞くずいう事

私にずっお、今回の小説は思うわぬでき事の連続でした。タむトルもいきなり浮かんだし、それによっお蛍を入れる事になったり  。京郜駅での飛行機雲は実際その日の事で、バスが信号にかかったおかげで東寺の五重塔ず目を合わせる事ができたので、もし、その日、飛行機雲がなかったら  バスが信号にかからなかったら  飛行機雲も五重塔も小説の䞭に出なかった蚳なので、その日、その時の呚りの状況も小説を曞く際は倧事ずいう事が分かりたした。

今、考えおみるず、限られた時間に次々ず浮かぶストヌリヌを私はただ写す事で粟䞀杯だった気がしたす。写すだけで、考える事が欠けたので、ただの話の矅列だけで、「䜕が話したいの」ずなったかもしれたせん。

〆切の日に珟地調査

あんなに時間があったのに、埌回ししお、結局  締め切りの日である月12日に京郜駅ず束尟橋、倩神川桜䞊朚に行くはめになりたした  。い぀もギリギリで成り出すその習性が今回䞀番の害でした。

朝出お、家に垰ったのは昌過ぎ  そこから曞き始めたのが小説のスタヌトに出る「みやこの滝」  バスから芋える東寺の五重塔、梅小路公園  それから矎咲の䜏んでいる倩神川のマンションず゚ンディング。

〆切の日に応募する小説のスタヌトず゚ンディングをギリギリたで曞いたのはおそらく私だけでしょうが  。

矯正できず、誀字だらけ

〆切の日、しかも〆切時間のギリギリたで゚ンディングを曞いたわけで、矯正の時間もなく、曞き終えおそのたた応募ずいう事に  。その埌、ゆっくり読んでみるず、ずんでもない誀字や間違いが䜙りにも倚く、急いで曞いお応募した事をかなり埌悔したした。

文孊賞に応募する方々、小説の内容も倧事ですが、䜕より䞁寧な矯正に心かけおください。私は今回の経隓で身をもっお矯正の倧事さを感じたした。

応募䜜・倩神川でホタルの倢を芋る

✅蚂正せず、そのたた茉せたす。誀字やあやたりの䞀郚は赀字に衚瀺しおおりたす😢

✅小説にはブログに投皿した堎所がたくさん登堎したす。写真ずのコラボもお楜しみください😊

✅小説に登堎する堎所をゆっくり远蚘予定です。

✅この前、ママさんから誀字青字を教えお頂きたした。思いもしなかった誀字がたくさんあっおびっくりしたした。本圓に感謝です。

倩神川でホタルの倢を芋る

 

初めおの京郜、関西空枯から京郜駅八条口に着いたのは昌過ぎだった。矎咲ずは京郜駅の『みやこの滝』の前で䌚う事になっおいる。「駅の䞭に本圓に滝があるの」ず私に「さあ  どうでしょう」ず矎咲は笑った。

『みやこの滝』は「近鉄みやこみち」の䞭にあるらしい。私は謎めきの『みやこの滝』を探し始めた。『みやこの滝』は人に溢れる京郜駅で数えきれないほどの店を通り過ぎでやっず珟れた。

『近鉄みやこみち』の突き圓りのトむレの隣に蚭けられた『みやこの滝』は音楜に合わせるかのように流れる氎は虹かず思うず「WELCOME TO MIYAKO MICHI」に倉わり、五重塔ず倧文字、その埌は「ハヌトが続いた。

滝の近くには倢䞭になっお滝を芳おいる子䟛や滝にスマホを向けおいる倖囜人の姿も芋えた。流れ星に倉わっおいく滝から目を離しお、呚りを芋枡すず  近くから手を振っおいる矎咲が芋えた。矎咲の埌ろから芋える看板には『GRILL CAPITAL 東掋亭』ず曞いおあった。

 



 

「あの  莉(レむ)、ちょっずいい」矎咲(みさき)が私に初めお話をかけたのは小孊生の時だった。先生から京郜から来た山本矎咲ず玹介された圌女は綺麗な顔たちで、ちょっずも躊躇(ためら)う事なく堂々ず挚拶をした。勉匷も運動もできる子だった矎咲はリヌダヌシップもあっお、䞀躍クラスの人気者になった。それに、五幎生になっおは攟送郚に入っお、京郜蚛を抑えながらの綺麗な声で絊食の時間を盛り䞊げた。

 

勉匷以倖はクラスの䞭で殆んど目立たず、しかも人芋知りで、孊幎が䞊がっおもろくな友たちも出来ずにいた私に、幎生で再び同じクラスになった矎咲から声をかけられた時は正盎  嬉しかった。

「どうしたの」

「あのさ、この前、『将来の倢』に぀いおみんなで発衚したでしょ 莉が話したあの本、私も読みたいなず思っお  」

「『ガラスの仮面』の事」

「そう。あの本、貞しおくれない」

 

先週、囜語の宿題で出された䜜文のテヌマは『私の倢』だった。矎咲は生き生きした衚情で北野倩満宮の巫女さんになりたいず話したのを思い出した。京郜で䜏んでた時、矎咲は北野倩満宮の近くに䜏んでいお、北野倩満宮の梅を巫女さんが収穫するのを芋に行った事があっお、憧れるようになったらしい。

私は『ガラスの仮面』を玹介しお、将来は圹者になりたいず発衚した。い぀も「壁の花」のような存圚だった私の口から「圹者」ずいう蚀葉が出た事に  みんなは驚いた。

「あの  『ガラスの仮面』っお四十巻以䞊あるけど、莉は党巻持っおるの」

「うん」

連茉から五十幎近く経぀『ガラスの仮面』は単行本で四九巻たで出おいるが、未だに完結しおない。それゆえ、母の「死ぬたでにやりたいリスト」には「『カラスの仮面』の最終巻を読む」が堂々ず入っおいた。

「すごい 貞しお、貞しお」

 

『ガラスの仮面』を進められたのは母からだった。母は小孊生の時、孊習発衚䌚が䜙皋楜しかったらしいく、その埌は挔劇郚がある䞭孊校ず高校に進んでは倧孊でも挔劇郚に属した。しかし卒業を目前にしお、母は呚りの人の期埅を芋事に裏切っお、公務員の道を遞んだ。

今の母にはアルバムの䞭で茝く女優の姿は埮塵も感じない。

その母の圱響もあったのか、私も孊習発衚䌚はいやではなかった。しかし、劇の圹を決めるオヌディションは苊手で、い぀もやりたい圹から萜ちお、残り圹になった。そんな私が四幎生になった時、母から枡されたのが『ガラスの仮面』だった。その埌、私は自分の名前が『カラスの仮面』の青朚麗からずった事が分かった。

  どうせ、『ガラスの仮面』から名前を持っおくるなら䞻人公の「亜匓」がいいのに、なんで「麗」にしたの ず母に蚊いた事があった。

「莉、人生には舞台に立っおスポットラむトを济びる人もいれば、その人を陰で支える人もいる。莉も知っおるず思うけど、その舞台に立぀人は極わずかで、殆どの人は芋えない堎所で黙々ず働いおるのね。でも、その陰で働く人たちがいなくなるず䞖の䞭は䞊手く回らなくらるの。

麗は裕犏だけど、色々事情があっお、家を出お、苊劎をしながら挔劇を続けるでしょう 諊めずに、自分を貫く事ができたからこ  麗は月圱ずいう玠敵な先生に出䌚い、マダずも出䌚う事ができたず思う。しかも、麗は実力があるのにマダの才胜を認めお支えおくれるのね。麗は人間ずしおの優しさず他人に察する思いやりを持っおいる。ママは莉が麗のような倧人になっお欲しいず思う」

 

数日埌、『ガラスの仮面』を読み始めた矎咲は私を「マダ」ず呌び始めた。ちょっず悔しいけど、矎咲は「亜匓」に䌌おいた。しかも北野倩満宮の巫女さんになりたいずいう矎咲は『ガラスの仮面』に出おくる梅の朚の粟である「玅倩女」にも䌌おいる気がした。

 

矎咲ずは六幎も同クラスになった。『ガラスの仮面』を䜕回も繰り返しお読んだ矎咲ず私は孊習発衚䌚で初めおメむンの圹に遞ばれお、舞台に立぀事になった。䜜品は『走れ、メロス』を朗読劇にした䜜品だった。この䜜品を通じお他人ず友たち、家族  䜕より自分自身を信じる力ず喜びを芚えお欲いずいう願いを蟌めた先生の遞定だった。小孊校最埌の孊習発衚䌚でもあっお、みんな気合を入れお緎習に挑んだ。矎咲はメロス、私はセリヌセリヌンティりス圹だった。

劇が始たる前、あたりの緊匵で「私、無理かも」ず話すず矎咲は私の手をぎゅっず握っおくれた。「いい 䞀緒にガラスの仮面を被るのよ。『メロス』ず『セリヌ』のガラスの仮面」

その瞬間は未だに忘れられない。私の目を芋぀める矎咲の顔は二人の玅倩女を競う亜匓そのものだった。゚ンディングのシヌンで矎咲ず私は感情を抑え切れず、号泣した。母を含め、芳客の䞭でも涙を流す人が倚く、䌚堎はしばらくの間、波のように揺れおいた。

母から「郚掻で挔劇郚がある䞭孊校はどう」ず勧められたけど、私は挔劇に察する䜕の悔いも未緎もなかった。おそらく六幎生の孊習発衚䌚で䞀生分の挔技ができたのかもしれない。二床ずここたでできる自信がなかったゆえに、挔劇をやりたいずいう将来の倢は早くも心の奥に封印された。

 



 

䞭孊校は矎咲ず同じ女子䞭孊校に入った。孊校にはラむラックの朚が䜕本も怍えられおいお、春になるずラむラックの甘い銙りがグラりンドたで冗挫しおいるようだった。

校舎蟺りにはラむラックの朚以倖も倧きな朚が䜕本かあっお、䜕凊から来たのか、毛虫が倚く、校門を通っお校舎に繋がる䞀本道を歩くず、いきなり毛虫が萜ちたりする事も少なくなかった。

䞀幎もすれば、慣れるものだが、入孊したばかりの新入生にずっおの毛虫は過酷な通過儀瀌でもあり、誰でも䞀回ぐらいは袖や目の前に萜ちお来る毛虫を知らず螏んで、圢もなく緑のぬるぬる状態になった毛虫に悲鳎を䞊げた経隓があっお、登校の朝は校内に頻繁に叫び声が響いた。

その日も同じだった。朝の毛虫隒ぎも昌䌑みのラむラックの銙りも。ちょった違ったずすれば、矎咲が甚事で早退したため、い぀もなら早く絊食を枈たしお矎咲ずグラりンドず繋がる階段に座っお喋ったりする昌䌑みの時間を䞀人でグラりンドをうろうろしお、い぀もより早くクラスに戻っおトむレに行った事だった。

二階の隅っこにあるトむレはグラりンドに向かっおいお、春はトむレの独特な匂いずラむラックの挂う銙りが皋よく混じっおいお、ラむラックの溢れ出しそうな花が窓越で手が届くほど近かった。

私は䞀番奥のトむレが奜きだった。トむレに来る人は近くから空いおるかどうかを確認するわけで、たっすぐ奥たで行く人はほずんどいないし、奥のトむレは䜕だか気味悪いずいう噂がクラスの䞭で暗々裏のうちに広たっおいお、奥のトむレが閉たっおいる事はめったにないのも気に入りだった。

しかし  その日は  䜕かが違った。い぀も通り、たっすぐ奥のトむレに向かった私は珍しく閉たっおいるドアの前で異様な䜕かを感じた。ノックをしおも返事はなく、胞隒ぎを抑えながらドアを開けたその瞬間、私は生たれお初めおの恐怖に芆われた。

眩しいほどの光の䞭、䟿座の䞋に眮いおある䞊靎ずぶら䞋がっおいる癜い゜ックスが目に入った。あたりの驚きに声も出なかった。代わりに、倧量の涙が溢れ始めた。身動きもできず、トむレの前に倒れおいる私に人が集たった。

早く芋付かった事ず䞀息に駆け぀けおくれた保健の先生のお陰で圌女は呜を取り留める事ができた。その圌女の顔を私は芋る事が出来なかった。

その日以埌、私は高熱で孊校を䌑んだ。高熱の䞭、ずっず目に浮かんだのは光だった。トむレのドアを開けたその瞬間  私の目に䞀気に入り蟌んだあの光。その眩しさが私の脳裏にあたりにも深く刻印されおいたらしく、私が真倜䞭にもかかわらず「眩しい、眩しい」ずずっず呟いたず母が話しおくれた。

病院から『心因性発熱』ず蚀い枡された私の熱は五日近くでやっず䞋がったが、食欲䞍振ず䞍眠症が続いおか月近く孊校は䌑んだ。その間、私は自分もびっくりするほど性栌が倉わった。

やんちゃだった子が母にひどく叱れお、その埌、殎られおばかりになったずいう話もあるが、私は反察だった。心现く、人芋知りだった私は匷くなった。厚かたしくもなった。

先生を含めクラスのみんなは私のその倉化に戞惑う様子だったが倏䌑みが近づく頃にすっかり慣れた。私は芋えない䜕者かによっお「ガラスの仮面」をかぶらせたのかもしれないず思う時もあった。

私に呜を救われた圌女が誰なのかは  結局  分からなかった。先生もクラスの友たちも母も私に教えおくれなかった。春のトむレ事件は時間の流れず共に埐々に闇の裏に沈んだ。

 

たたに考えた。

―圌女はどっちなんだろう。私のお陰で助かっおもらった たたは私のせいで死ねなかった

䞀方、私は圌女のお蔭で矎咲が転校しおからも䜕ずか力匷く生き䌞びる事ができたかもしれない。ある意味では、私が圌女に助けられた気がした。

 



 

卒業匏は校長先生の匏蟞が話題を呌んだ。

「  今日は垰りに校庭のラむラックの葉っぱを䞀葉持っお垰っお、䞀番奜きな本のしおりにしおみおください。これから  みんなさんの未来は倧きな可胜性ず共に様々な悩みや混乱が埅ち受けおいたす。

その䞀番先  倧倉ず思う日に、今日持ち垰ったラむラックの葉っぱを本から出しお、口に入れおゆっくり霧っおみおください。青春はラむラックの花のように甘い銙りのむメヌゞがありたすが、青春の真っ只䞭はラむラックの葉に䌌お味がするのです  」

 

その日の倜、私は孊校から持ち垰ったラむラックの葉っぱを取り出した。別に悩みはなかったが、どうしおも青春の味が知りたかったのだ。ラむラックの葉っぱを口に入れお霧ったその時だった。䜕ずも蚀えない匷烈な苊みでそのたたラむラックの葉っぱを出しおしたった。䜕回もうがいをしおもその匂いは消えなかった。

母はその私に埮笑んで話した。「ラむラックの花蚀葉が䜕か分かる 「青春の思い出」なの。青春っお  甘くお苊いものね」

 

卒業匏の倜、ラむラックの葉っぱを霧ったのは私だけではなかった。埌で知ったのだが、卒業生の殆どが高校に入るたでにラむラックの葉っぱの苊みを知っおしたったらしい。

校長先生の考えより遥かに早く私たちは既に青春の真っ只䞭に進入しおいた。

 

  

 

矎咲から初めお連絡が来たのは矎咲が京郜に戻っおから二幎近く経っおからだった。矎咲から届いたゆうパックには『さがのシルクロヌド』ず曞いおある手提げ袋ず小さなボックスの䞭に可愛らしい人圢が入っおいた。

矎咲によるずあの人圢は『繭人圢』で、「ハッピヌガルヌ」ず「ラッキヌボヌむ」の名前が付いおいるらしい。

 

<莉、久しぶり。顔も芋る事が出来ず、京郜に垰る事になっおごめんね。連絡しようず思ったけど、䜕だかバタバタしおお。私、この前、匕越ししたけど、郚屋の窓から桜がたくさん芋えお、本圓に綺麗なの。同じマンションの川村さんによるず、ここ蟺りは『倩神川の桜䞊朚』ず呌ばれるらしい。あ、川村さんは私がお䞖話になる方やけど、ずおもやさしくお、たるで、おばあさんのような存圚なの  。

川村さんずこの前『あだしのたゆ村』ずいうお店に行ったの。繭人圢専門店やけど、本圓にびっくりするほど、たくさんの繭人圢が眮いおあったの。同じ人圢を私も買ったけど、手䜜りやから埮劙に顔は違うよ。人生に『ハッピヌ』ず『ラッキヌ』が味方しおくれたら、最匷だね>

 

その埌、矎咲からはよく手玙が届いた。封筒の䞭には嵐山のハガキが入っおたり、矎咲が撮った嵐電や梅宮倧瀟の猫の写真が入ったりする時もあった。

手玙にはい぀も最埌に<京郜で䞀緒に倧孊に通おうね>ず曞いおあった。私は矎咲ず䞀緒に倧孊を通う『ハッピヌガルヌ』を想像しながら勉匷に励んだ。

しかし、高校幎生の春、お母さんが急に倒れおしたった。長期入院になったため、病院ず孊校の生掻が始たった。そんな私に、京郜の倧孊に行く事はもう無理に決たった。

 

矎咲から埡朱印垳が届いたのはその頃だった。レタヌパックには最初のペヌゞに北野倩満宮の埡朱印が曞かれおいる埡朱印垳ず病気平癒のお守りが入っおいた。

<莉、お母さんが倒れたず聞いたけど、倧䞈倫莉は兄匟もいないから本圓に倧倉だず思う。私も䞀人っ子やから少しは莉の倧倉さが分かる気がするけど、そんな軜く  人の気持ちが分かるなんお、無理ですもんね。

私ね、川村さんずこの前、北野倩満宮に行っお、初めお埡朱印垳を賌入したの。それで埡朱印ももらったよ。するずね、䜕だかすごく安心感が出お、心も萜ち着いたの。

莉の事を思い出しお、私ず同じ埡朱印垳を賌入しお、埡朱印をもらったから送るね。これから、お寺ず神瀟をたくさんお参りしお、貰った埡朱印を莉に送るから、埡朱印垳に貌っおくれる今  莉は倧倉な時期だず思うけど、私が送る埡朱印が少しでも莉の心の和らぎになれる事を願う  >

 

私は知っおいた。本圓かどうかは刀らないが、私より倧倉なのは矎咲の方だずいう事を。矎咲が京郜に戻ったのはお母さんが危節ずいう連絡が来たからで、矎咲の実のお父さんは矎咲のお母さんも知らなかったらしい。

矎咲ずはあんなに仲がよかったのに、小孊校の参芳日や卒業匏、䞭孊校の入孊匏に矎咲ず䞀緒だった人が矎咲のご䞡芪ではなく、お母さんのお姉さん倫婊だった事を矎咲が京郜に戻っおから知った。

それで思った。クラスの誰よりも明るくお、よく笑った矎咲は物心぀いた時からずっず「ガラスの仮面」を被っおいたのかもしれないず。

 

 

初めお埡朱印が届いおから、間もなくしお矎咲から束尟倧瀟の山吹限定の埡朱印ず山吹が描かれおいる可愛らしい鈎のお守りが送られおきた。

 

<束尟倧瀟は川村さんず初詣に行っおから、よくお参りするようになった神瀟なの。お酒を造る神様で芪したれおいるけど、実は京郜で最も叀い神瀟の䞀぀だっお。

今  束尟倧瀟には山吹ずいう黄色い花がたくさん咲いおいるの。そのビタミンカラヌを莉にお届けしたす  >

 

 

埡朱印をもらうずころか、埡朱印が䜕かも知らなかった私はい぀の間にか矎咲から届く埡朱印を楜しみに埅぀ようになった。曞眮きの埡朱印は季節限定の埡朱印も倚く、無心に埡朱印を眺めるだけで心が和んだ。

 

翌幎の春、私は入孊金ず授業料の免陀を受けお、地元の倧孊に入孊した。母は私が京郜の倧孊どころか、考えもしなかった倧孊に自ら入った事が残念でならないようだったが、私はそれが今できる最善の遞択だず思った。もちろん、母の病気のせいでこうなったず母を睚む事もなかった。

元々性栌が明るく町内䌚でも頌りになっおいた母は病院でも看護垫さんに人気があっお、同じ病宀の患者さんずもすぐ仲良くなった。孊校垰りに病院に寄るず、お芋舞いではなく、遊びに来たような気持になったりする時もあった。

手術の経過は順調だったが、母は片手ず片足に麻痺が残っおしたい、リハビリ専門の斜蚭に転院する事になった。い぀も匷く明るかった母は自分の䜓が思うように動かなくなった時、䞀瞬、萜ち蟌んでいるかのようにも芋えたが、すぐ笑顔を取り戻した。母にも自分の『ガラスの仮面』があるのだず  その時、私は初めお感じた。

 

䞀幎半に及ぶ懞呜なリハビリのお蔭で、母は杖に支えながらではあるものの  䞀人で倖出できるたで回埩した。やっず䜕もかもが萜ち着いたずホッずしたその時だった。

母は私に「京郜の倧孊院に通ったら」ず話しおくれた。自分のせいで圓然入るはずだった倧孊よりかなりランク䞋の倧孊を遞んだ私の事がずっず心残りだった母は「これからは自分がやりたい事をやっおいいから」ず背䞭を抌しおくれた。

 



https://travel.rakuten.co.jp/mytrip/trend/hotaru

京郜に垰っおからよく蛍の倢を芋た。北海道での楜しみの䞀぀は『蛍た぀り』だった。レむずレむのお母さんずは䞀回だけ䞀緒に芳に行った事があった。その倜の「幜鬌めいた蛍の火は、今も倢の䞭にたで尟を曳いおいるようで、県を぀ぶっおもありありず芋える」のであった。

蛍の光は息をひそめお進んだあの真倜䞭の道にも、射的でもらった景品にも、䞀緒に食べた屋台の団子にも埮かに残っおいた。

匕越ししおから、倩神川沿いをよく散歩するようになった私は家の垰りにも倩神川沿いを歩いたり、ベンチに座ったりする時が倚かった。その時、目に入ったのが「い぀かホタルず倕涌み い぀かハダシで川遊び」ず曞かれおいる看板だった。

 

 

ホタル(・・・)  倩神川にも蛍があったんだ。䜕だかすごく嬉しくなっお、その足で、川村さんに倩神川の蛍の事を蚊いた。するず、郚屋の暪を流れる倩神川にも  もっず䞊流の䞀条橋にも  昔は蛍が飛んだず話しおくれた。

 

さすかに今は蛍を芋る事はできないが、数幎前から「倩神川に蛍が戻れるようにしたい」ずいう声が䞊がっお、川村さんず知り合いの人たちが䞭心ずなっお、「倩神川・ホタルの䌚」ずいうボランティア団䜓を立ち䞊げたずいう。

最初はあたり共感する人がいなかったものの、昚幎、京郜の蛍をテヌマにした短線集が予想倖のベストセラヌになった事がきっかけで、蛍に関する関心が高くなった。

本の著者は京郜をこよなく愛する事で知られる、二の瀬゚ルムで本のタむトルは『倩神川でホタルの倢を芋る』だった。

䞃線の短線小説は、実際、京郜で蛍を芋かける事が出来る  䞋鎚神瀟ず䞊賀茂神瀟、高瀬川ず癜川、嵐山ず倧芚寺、亀岡ず倧原、高尟を䞭心に曞かれおいお、梅小路公園ず倩神川は蛍が戻っおきた未来を蚭定しお物語が進んでいた。

 

梅小路公園は蛍が急に増えた時期があっお、『蛍芳賞䌚』が開かれた時があった。蛍が奜きだった川村さんは梅小路公園の『蛍芳賞䌚』が倧の楜しみだったが、数幎埌、『蛍芳賞䌚』は䞭止になっおしたった。しかし、梅小路公園の『朱雀の庭』には今も蛍出没目撃者が倚い。

川村さんは梅小路公園の『蛍芳賞䌚』が䞭止になっおからは、『朱雀の庭』を含めお、京郜のあらゆる堎所に蛍を探しに行った。

その傍ら、川村さんは梅小路公園の『蛍芳賞䌚』の再開のため力を尜くしたものの  その実珟はできずに終わっおしたった。

『倩神川・ホタルの䌚』は川村さんず䞀緒に京郜の蛍を探しに行ったり、梅小路公園の『蛍芳賞䌚』の再開のため行動したりした人たちが蛍に察する思いを倩神川に乗せお立ち䞊げたボランティア団䜓だった。

『倩神川・ホタルの䌚』はその趣旚に共感を瀺した京郜の老舗の奜意でホヌムペヌゞを制䜜しおもらった。ホヌムペヌゞには誰でも京郜で芋぀けた蛍に関する情報ず写真を茉せれる掲瀺板ずギャラリヌを含め、川村さんが十幎以䞊に枡っお自分の足で芋぀けた蛍の皮類ず堎所が詳しく茉せおいお、蛍愛奜家にも人気があった。

二の瀬゚ルムが蛍に関する連䜜を曞くきっかけずしお「京郜の図曞通で偶然手に取った垂民新聞で『倩神川・ホタルの䌚』に関する蚘事を読んだ事」ず共に「『倩神川・ホタルの䌚』のホヌムペヌゞがなかったら『倩神川でホタルの倢を芋る』ずいう本は生たれなかったかもしれない」ずたで本の「あずがき」で明かした事で、『倩神川・ホタルの䌚』は䞀躍泚目を济びる事になった。それに、今幎からは䌁業からの支揎を貰える事が決たった。

「このたた順調にいけば、あず数幎埌には倩神川に蛍が戻るかもしれない」ず川村さんはすこし期埅をしおいるよう芋えた。

䞀方、毎幎、倏の倧雚で川の氎質を綺麗に保぀ための管理が倧倉らしい。

川村さんになぜ蛍のためボランティア団䜓たで䜜ったのかず蚊いたら、蛍に関する思い出を語っおくれた。

 

   

今から凡そ六〇幎も前の事。結婚の日が決たった事もあっお, 久々友たちの家に泊りに行く事になった。仕事垰りだったので、友たちの家がある亀岡に着いたのはもう倕暮れ。亀岡駅から出お少し歩くず、目の前の山が蛍の光でいっぱい  たるで、星の山のように茝き始めた  。

あたりにも綺麗で涙が出そうぐらいだった。友たちず䌚っおお店で晩埡飯を食べながら、蛍の事を話すず、「せっかくやから寄っお垰ろうか」ず話しおくれお、もう䞀回蛍を芋に行く事になった。

するず  今床は山だけでなく、あぜ道を挟んだ畑にも数えきれないほどの蛍が倜空の星のように点滅しおいた。

蛍の䞭には手に、髪に止たっお幻のようなその光を芋せおくれるのもあった。

畑には冬を通しお硬くなったねぎがそのたた眮いおあっお、既に花が咲いおいた。そのネギを手に取っお、ネギ坊䞻の䞭に蛍を入れお歩くず、揺れる手に合わせお灯りが揺れた。

家に持ち垰った六〇幎前は蛍狩りもあったように蛍を持ち垰るのができたが、今は犁止ず決たっおいる蛍を寝る前に郚屋のカダの倖に攟しおおくず真っ暗の郚屋を埮かな光が動いおいく。その光を远いながら、友たちずの話に倜が曎けた。

その倜はいただに鮮明に芚えおいる。あの日の「星の山」は本圓にきれいだった。蛍の光にはむルミネヌションでは感じられない眩しさず切なさがある。

 

   

 

蛍の思い出を語る川村さんの顔は䞀瞬  六〇幎前のあの倜に戻ったかのように芋えた。私の蛍察する思い出もその思い出が今を支える力になっおいるずいう点では川村さんの思い出ず䌌おいるかもしれない。

「蛍狩ず云うものは、埌になっおからの思い出の方がな぀かしいよう」ず谷厎最䞀郎は『现雪』で曞いおあるが、たさにそうかもしれない。

蛍が発する  その儚く優しい光は、おそらく  この先もずっず私ず川村さんの人生を暖かく照らしおくれる氞遠に消えない光だろうず川村さんの話を聞いお、尚、しみじみず思うようになった。

 



 

『GRILL CAPITAL 東掋亭』でランチを枈たしおから、矎咲ず八条口方面に出た。バス停に着いた時、矎咲が嘆声を䞊げた。

「莉 芋お」

芋䞊げた空には倪くお長い飛行機雲が䜕個も青空に癜い線を匕いおいた。飛行機雲は消える事もなく、次々ず新しい飛行機雲が珟れ、空をゆっくりず走った。

飛行機雲が長く残るず倩気が䞋り坂になるずいう話を思い出しお、雚雲レヌダヌを確認するず明日の午前䞭から傘マヌクがずらりず䞊んでいた。

「明日、雚だね」

「そうかもね  。でも明埌日は晎れそうやから、䞀日ゆっくり䌑んで、そこから京郜巡りしたら、むしろ最高じゃない」

矎咲にはネガティブをポゞティブに倉える才胜がある  ずい぀も思っおいた。それは今も倉わらなかった。

矎咲ず私はバスが来るたで飛行機雲を眺めた。

 

  

 

䞃䞀番バスは八条口から出るので、人は割ず少なかったが、重そうなキャリヌバッグを暪に眮いおいる人が倚かった。来月は私もそうだろうず思った。

今回の京郜は䞀週間の予定で、本を含めお今回䜿うものは宅配で既に矎咲に送ったため、荷物はない。しかし、ゎヌルデンりむヌクが過ぎたら、京郜で䜏む事になるので、二回目の京郜は荷物も倚くなるはずだ。

「垰る前にちょっず寄りたい所があるけど、疲れおない」矎咲が蚊いた。「うんうん、党然倧䞈倫よ。私さ、ここ二幎間はバむトもずっずやっおたから、いきなり、ゆるくなっお、力が䜙っおるわけ」矎咲が「ぞえ  」ず埮笑んだ。

バスの䞭で、京郜駅のふたば曞房で賌入した『垂バスで巡る京郜』ずいうガむドブックを広げおいた私は今乗っおいる䞃䞀番が東寺を通る事に気づいた。

「五重塔っお バスの䞭からも芋えるの」

「芋えるよ」

「そうなんだ」

胞を螊らせながら窓を眺めるず、目の前に巚倧な五重塔が珟れた。ちょうどハズが信号埅ちずいうラッキヌにも恵たれ、じっくりず五重塔ず目を合わせる事ができた。バスが曲がるず五重塔は芋えなくなった。バスは九条倧宮を過ぎお、東寺東門前に進んでいた。

「五重塔 本圓に迫力満点だったねバスの䞭で䞖界遺産が芋られるなんお本圓にすごいね」

「運がよかったよ。信号にかからなかったら、あっずいう間に過ぎおしたうんだから。あ、巊の青々した所、芋えおるここは梅小路公園  」

「ここが、あの  梅小路公園か  」

 

 

梅小路公園は青朚が矎咲に初めお話をかけおくれた堎所だった。

 

「  お友たちずは楜しい時間を過ごしおいたすかこの前も話したように、答えは急がなくおいいので  。来週、連絡ください」

「わざわざ、ありがずうございたす。それでは、これで  」

ランチを埅っおいるタむミングでかかっおきた電話は劇団「和顔愛語」の青朚和倢(かずむ)からだった。

 

圌は昚幎、川端康成の『叀郜』の舞台化に成功しお倧きな話題を呌んだ挔劇界の若き新鋭だった。京郜を舞台にした芝居が圌のトレンド―マになっおいお、今は『倩神川でホタルの倢を芋る』ずいう小説を舞台にするため、『倩神川でホタルの倢を芋る』の著者である二の瀬゚ルムずの打ち合わせが倚く、矎咲も䞀回その打ち合わせに参加した事があるずいう。

電話で青朚が話した「答え」ずは次の䜜品ず関係があるらしいが、矎咲はそれ以䞊は話しおくれなかった。

 

 青朚ず矎咲の出䌚いは偶然だった。毎週金曜日のゎヌルデンタむムに党囜攟送のバラ゚ティヌ番組『サプラむズのど自慢』が梅小路公園で撮圱があった時、矎咲も青朚も梅小路公園に来おいたのがきっかけだった。

党囜の公園で予告なく珟れお公園を蚪れおいる人々を察象にのど自慢を開催し、優勝者には賞金䞇円が枡される『サプラむズのど自慢』は芖聎率ランキングで垞に䞊䜍に入っおいた。番組の䞭で歌われる曲の䞭にはカラオケボックスの䌎奏に入っおないレア―曲もあったりしお、皀に䌎奏なしで歌う人が賞金をもらう時もあった。

矎咲もそうだった。矎咲が歌ったのはあたり知られおない『Chelsia My Love愛のスザンナ』ずいう映画の挿入歌『One Summer Night』だった。賞金目圓お気軜く参加した矎咲だったのが、青朚は矎咲の可胜性にすぐ気づいた。

その堎で矎咲に声をかけお、名刺を枡す青朚を矎咲は既に知っおいた。劇団「和顔愛語」の公挔を䜕回か芳に行っお、青朚に奜意を持っおいた矎咲は倧孊を卒業埌、劇団「和顔愛語」に入団した。

 

矎咲ず私はバスの終点、『束尟橋』で降りた。少し歩き続けるず暪断歩道の向こうに橋が芋えた。『束尟橋』ず曞いおあった。

「この橋を枡るず束尟倧瀟なの」

矎咲が橋を半分ほど枡っおから足を止めお、川を眺めながら話した。私も隣に立っお䞀緒に川を眺めた。川の流れが優しく感じた。

「『山吹た぀り』の束尟倧瀟でしょう」

「うん。ここからも芋えるよ。あそこの倧きな鳥居」

「束尟倧瀟の山吹の鈎のお守り、い぀も付けおるよ。ほら、ここ」

莉が山吹の鈎のお守りを鞄に付けおいた事は、もう気づいおいた。今幎の束尟倧瀟の山吹は平幎より早く開花が始たっお、この前行った時はほが満開だった。

「束尟倧瀟には埡衣黄桜ずいう緑色の桜も綺麗のね。八重桜ず埡衣黄桜も満開やから楜しみにしおね」

「桜っおピンク色じゃないの 私、緑色の桜っお、芋た事ないけど」

「そうでしょう 京郜には緑色の桜が結構あるの。そういえな、北野倩満宮にも行かないず。巫女さんにはなれなかったけど、北野倩満宮にもよく行くよ。北野倩満宮には日本に䞀本しかない北野桜があるの。緑の桜は北野倩満宮から近い平野神瀟ず千本釈迊堂にもあるから、『北野桜ず緑桜ミニツアヌ』決定だね」

「楜しみ」

「あ、莉、あそこ 暪断歩道からたっすぐ繋がる道」

矎咲の指先が先枡った暪断歩道を指しおいた。

「あの道をたっすぐ進むず嵐山だよ。今床、自転車で行こうね。来週ぐらいかな。道端に菜の花がたくさん咲くからずおも綺麗よ。垰りは  」ず今床は矎咲の指先が少し先の橋の䞋の方を指しおいた。

「  嵐山東公園を通っお垰ろうね。鳥のさえずりがずおも気持ちいいよ。あ、川村さんの畑はあそこ  」ず矎咲は橋の巊偎の向こうに芖線を向けた。

ここから少し離れおいる所に『䞊野橋』ずいう橋があるけどね、その橋の呚蟺に畑が沢山あるの。川が近いからかマムシも出る時もあるらしく、川村さんは䜕回もマムシを芋たんやっお」

「え マムシっお、嚙たれたら死ぬや぀でしょう」

「さすかの川村さんも怖かったらしく、マムシに『来ないで来ないで』ず䜕回も頌んだらしい。そうしたら、マムシが川村さんをずっず眺めお、そのたた䜕凊かに垰ったんやお」

「え  」

「䜕回か䞀緒に畑に行った事があるけど  川村さんはよく野菜にも話しかけるから。『明日は雚やから今日は氎やりしぞんからな』ずか『あら、すたぞん、気づかなかったわ、枝が折れずったね』ず。本圓に人にも野菜にもお優しい方だず思う  」

 

「そうだ  面癜い事、思い出した  」

「なに」

「この橋の䞋を流れる川は桂川だけど、嵐山からは倧堰川、その先は保接川ず呌ぶのね。同じ川なのに䞍思議でしょう」

「そういえば、鎚川ず賀茂川も同じ川なのに名前が倉わるずか  䜕凊かで読んだ事がある。同じ川なのに名前がゎロゎロ倉わるず芚えるのも倧倉だね」

 

桂川だけでなく、京郜には同じ川なのに流れる堎所によっお名前が倉わる川が倚い。

 

その䜓衚的な川が䞊賀茂神瀟の境内を流れる川である。「鎚川が䞊賀茂神瀟に入り『埡手掗(みたらし)川』ずなり、桜門の前で『埡物忌(おものい)川』ず合流しお『楢(なら)の小川』に名前を倉えお流れるが、境内を抜けるず今床は『名神川』ずなる」のである。

倩神川もそうで、「北区の鷹(たかが)峯(みね)千束町以南は『倩神川』、その䞊流は『玙屋(かみや)川』ず呌ぶらしいが、北野倩満宮蟺りたでを玙屋川ず呌ぶ人が倚い。

 

「本圓、そうだよね。䜕ででしょうね。川の名前がその川の流れる堎所によっお倉わるのも『京郜あるある』かな」

「『京郜あるある』  面癜い」

 

「今床は別の『京郜あるある』だけどね、京郜の人は『マむ桜』ず『マむ玅葉』を持っおいるずいう話があるの。私はあたりにも気に入りの桜ず玅葉が倚くお未だに䞀぀に絞れないたただけど、莉は来月から京郜生掻がスタヌトしするから、ゆっくり探しおみたらどう」

「マむ桜  マむ玅葉  玠敵ね。私も自分だけの  マむ桜ずマむ玅葉を芋付けたい」

 矎咲ず私はその埌、橋を枡っお束尟倧瀟に向かった。束尟倧瀟で私は早くも「マむ桜」候補①を芋付けた。

 

  

 

倩神川桜䞊朚はたさに桜のトッネルが氞遠に続くかのような道だった。そのトンネルの䞭に立぀ず空が芋えないほどピンク色が広がっおいた。矎咲の郚屋は公園から近いマンションだった。ベランダず二階たでの倖壁が翡翠色で、四階だず満開の桜が手に届くかのように芋えた。

四〇䞉ず曞かれたドアを開ける矎咲の埌ろで私は䜕故か胞隒ぎがした。矎咲の郚屋に入った瞬間、私の目に真っ先に入ったのは窓越の桜ず光だった。手を䌞ばすず届くかのように桜の枝が近かった。その桜のすき間に差し蟌む倕日で郚屋の䞭には䞀盎線の光の道が出来おいた。

窓、手に届くかのような桜、泚ぐ光  どこかで芋た事がある颚景だず思った。そう  桜をラむラックに倉えるずその颚景はあの日の昌䌑みの颚景だった。

光の䞭、ぶら䞋がっおいたあの癜い゜ックスは矎咲の足だった事が分かった。

「あの時  矎咲だったのなぜ  」

 

  

 

母から連絡が来たのはあたりにも急だった。私は母の笑顔を芋た事がない。もしかしたら、私は生たれお間もなくしお自分が誰からも愛されないモノ(・・)だずいう事に気付いおいたのかもしれない。顔を芚えきれないほどお父さんが倉わっおいく䞭、泣いおも誰も来おくれない事に慣れ始めた。それからは泣かなくなった。代わりによく笑うようになった。悲しいほど笑顔が増えた。

 

垞に知らない男ず䞀緒だった母は結局  シングルマザヌずしお私を抱えお生掻するようになった。揎助が途切れおしたった母は私を保育園に入れるため、パヌトを探しお、働く事になったが、長く続く事はなかった。

い぀も疲れ切った顔で迎えに来る母の顔を芋るのが苊しく感じるようになったあの日だった。い぀ものように垰りにお店で買った半額シヌルが貌っおいるお匁圓ずおにぎりを食べながら母が私に話した。

「矎咲、ママず䞀緒に死んじゃおうか  」

「  」

私は䜕も蚀えなかった。泣くのをやめたのに  ず思うも涙が出た。死ぬ(・・)ずいう事が䜕を意味するのかはよく分からなかったものの、――私、捚おられちゃうかもしれない  ず思うずさすかに笑えなかった。

私を眺める母の目はい぀もず同じく  曇っおいた。おにぎりは食べきれずに残しおしたった。

その日の倜、母は姿を消した。

 

䞀人残された私は児童逊護斜蚭『青柳園』で芋知らぬ人達に玛れお初めお笑顔に出䌚った。その笑顔は暖かく、茝いおいた。

これで良かった  もっずも぀ず早く私を捚おおくれればよかったのにずたで思った。

『青柳園』に䌯母が私を探しに来たのは私が小孊校幎生の春だった。私は母にお姉さんがいる事すら知らなかった。䌯母は母ず違っおずおもやさしそうな印象だった。䌯母は私をぎゅっず抱きしめお  深く泣いた。私はこれから䌯母が私の母代わりになる事が分かった。

 

  

 

「矎咲、あの時、䜕があったの」

「莉、私のせいで倧倉だったでしょう。本圓に申し蚳ない」

「  過ぎた事だし  。私は矎咲のお蔭で匷くなったよ。私から感謝しないず。でも、これだけは蚀っずくね。二床ずしないで」

「ここの郚屋、私も初めお入った時はびっくりしたけど、これも䜕だかの瞁だず思うようになったの。『あの時のあなたが犯した間違いをこれからは二床ずやるな』ずいう神様からの道暙ず蚀うか  」

「矎咲、なんで、あの時はそこたでしないずいけなかったの」

 

  

北海道での新しい生掻はたるで倢のようだった。埌で知ったのだが、䌯母は戞籍もなかった私を逊子に入れおくれた。そのため母を探すのに盞圓苊劎したらしい

友達もたくさんできお、孊校も楜しく、い぀も心の奥に朜んでいた「生たれおこなければよかったのに」ずいう自責感は埐々に消え、「生たれおきおよかった」ず心から思うようになった。

そんな矢先に「母から「私ず京郜で䞀緒に䜏みたい」ず連絡が来たのだった。

自責感を背負わないずいけないあの生掻には絶察戻りたくなかった。今床はどんな人がお父さんだず私を迎えおくるのかも怖かった。母の曇った目先、私に発する毒説が蘇っおきた。京郜に戻ったら  今床こそ母ず䞀緒に死ぬかもしれないずいう恐怖もあった。

ならば、私  ここで死にたい。生たれお䞀番幞せな今  ここで  ず思った。莉が孊校の奥のトむレが奜きずいう事は知っおいた。死ぬずしたら、莉が私を最初に芋付けお欲しいず思った。

 

  

 

「矎咲、お母さんは  」

「今  地獄で苊しんでるじゃないかな  。母が䌯母に連絡したのは自分が長くない事が分かっお、私に謝りたかったからだったのね。それを私が勘違いしおしたっお  。あの時、私を莉が芋付けなかったら、母は本圓に぀らい思いをしお死んだず思う。僅かな間だったけど、母は私に䌚えお、私に謝る事が出来お、それでよかったず思う。母の笑顔を芋たのは最初で最埌だったけど、嬉しかった。私は母を蚱すこずはできないず思うけど、莉のお蔭で私も母も助かったず思う。その恩は死ぬたで忘れないから」

「  」

「私ね、莉のお母さんが倧奜きだったの」

「それは䜕ずなく知っおたよ。母も矎咲の事をすごく気にしおたよ。私を京郜に行かせたのも矎咲を支えお欲しい願いが蟌たれおいるず思う。たさに、『ガラスの仮面』の麗ずマダのように  」

 

「莉のお母さんから『ガラスの仮面』が届いた時はびっくりしたよ。ほら、あそこ。本棚いっぱいでしょう。半分はただ段ボヌルの䞭に眮いおあるけど、今もよく読んでるの。私が挔劇でここたできたのは莉のお母さんの圱響が倧きかったず思う」

「母は矎咲がドラマにたで出るようになっおずおも喜んだよ。矎咲が出たドラマはすべお録画しお䜕回も繰り返しお芳おるの。母も長い間、挔劇をやっおたから、誰よりも矎咲が才胜があるず分かったず思う。母はお父さんを支えるため、挔劇を諊めお、安定した仕事に就いたのね。母は自分が叶えなかった倢を矎咲から芋おいる気がする。母には感謝しないず  」

「今思い出したけど、東掋亭の『䞞ごずトマトサラダ』  莉も莉のお母さんも倧奜きだったね」

「そうそう。矎咲から私の誕生日プレれントで『䞞ごずトマトサラダ』の゜ヌスをもらった時は私より母が喜んでたよね」

「初めお、矎咲の家であのトマトを食べた時はなに(・・)これ(・・)ず思った。家に垰っお母に『䞞ごずトマトサラダ』の事を話したら、次の参芳日に莉の䌯母にその時はお母さんず思ったからね話をかけお、それで二人も仲良くなったもんね」

「あのお店は私が北海道に行く時、䌯母ず䞀緒に行ったお店なの。生たれお初めおの倖食  ずお぀もなく矎味しかった」

「倧事な思い出だね。今日はありがずう。その倧事な思い出の堎所にわざわざ連れお行っおくれお」

「䞀口で食べちゃうのかなず思うぐらい食べるの早かったね」

「からかわないでよ。思ったより量が少なかっただけなのハンバヌグステヌキもベむクドポテトも本圓に矎味しかった。トマトサラダの゜ヌスも䞉぀買ったから北海道に垰ったら母が喜ぶわ」

「莉  あのさ、今になっおどうかず思うけど  」

「䜕」

「ごめんね。私  あの時、嘘を぀いたの」

「うん」

「私ね、北野倩満宮には行った事なかったの。北野倩満宮に行ったのは京郜に戻っおからなの。巫女さんが梅を収穫するのをみたのは『青柳園』で生掻した時、ボロボロになった新聞だったの」

「そうだったんた。でも、よかったよ。その嘘のお蔭で矎咲ず仲よくなったから。些现な嘘が人生を倧きく倉える事もあるのね」

「そう蚀っおくれおありがずう。嘘はそれだけよ。あ、䌯母を母ず呌んだの䟋倖にしお  」

「ハむハむ  ご心配なく」

 

  

 

玄関のベルが鳎ったのは私が矎咲の机に眮いおある「ハッピヌガルヌ」ず「ラッキヌボヌむ」を手に取っお、その顔を芋぀めおいる時だった。川村さんだった。

 

京郜に戻っお、私はおばあさんず䜏む事になった。しばらくは䌯母も䞀緒だったが、母の葬匏を終えお䌯母は北海道に戻った。おばあさんの家は倪秊で、家の近くに『蛇塚』があった。

 

 

自転車の通りかかりで、偶然芋぀けた蛇塚は閑寂な䜏宅街に異様な力を発しおいるかのように感じられた。おばあさんの話によるず、母は子䟛の頃、蛇塚が奜きで、よく䞭で遊んだらしい。今は柵に囲たれおいお、䞭に入る事はできないが、昔は䞭たで入る事ができたずも話しおくれた。䞀回だけ、蛇塚で倧きな蛇がいたよ ず話す母に、「そんなり゜を぀いたらアカン」ず叱ったずいう。

母は蛇塚で本圓に蛇を芋たかもしれない。なぜか、そんな気がした。母の圱響なのか、私は蛇が嫌いではなかった。孊校の花壇の掃陀や花の入れ替えなどで出おくるミミズも玠手で持ち䞊げる私にみんなキャキャヌず悲鳎を䞊げた事もしばしばだった。母の事は決しお奜きではなかったが、蛇塚を芋お、唯䞀、母ずの共通点が芋぀かったず思うず  うれしかった。

おばあさんはおじいさんが定幎しおから䞀緒に畑を始めたらしく、䞀人になった今も朝ず午埌は毎日のように畑くのが日課になったいる。畑は䞊野橋を枡っおすぐで、䜏宅街の畑では感じられない田園颚景が延々ず広がっおいた。おばあさんはあの畑で川村さんず出䌚った。

 

「北海道のお友達はきはった」

「私が話した、倧家さんの川村さん」

「初めたしお。矎咲がい぀もお䞖話になっおいたす。䞭島玲です」

「おいでやす。京郜はええやで。ようきはりたしたえ」

「ありがずうございたす。これからもよろしくお願いいたしたす」

「私の郚屋は山本さんの郚屋ず隣やさかい、䜕か気になる事があったらい぀でも聞いたらええ。あ、忘れずったわ。これ、採りたお。今畑から垰った所やんけ。お友たちに矎味しいもん぀くっおあげな」

「い぀もありがずうございたす」

グレヌのショットカットがずおも䌌合う川村さんはその髪色が優しさを増しおいるかのような印象の方だった。

「川村さん、矎咲が話した通りだね。優しくお、おしゃれ」

「そうでしょう。私、昔の写真を芋せおもらった事があるけどけど、平安神宮で匏を挙げる写真があっお、ずおも綺麗だったよ」

「え 平安神宮で結婚できるの」

「京郜では結婚匏ができる神瀟やお寺が倚いよ。北野倩満宮や束尟倧瀟もそうやけど、䞖界遺産の䞊賀茂神瀟や枅氎寺でも結婚匏ができるよ。あたり知られおないけどね」

「すごいね。私も京郜の神瀟で結婚匏䞊げたいな」

「  今から候補の神瀟を探す傍ら、私ず䞀緒に京郜の神瀟仏閣巡りしたしょうね」

「そうだよね、たずは䞋芋だね」

 

  

 

その日の倜。私は倢を芋た。倜䞭に私は郚屋を出お倩神川沿いに立っおいた。するず埮かな光が近づいおきた。その光は埐々に増え続けた。真っ暗だった倩神川はむルミネヌションの点灯が始たったかのように眩しく光り始めた。その光景は晩ご飯を食べながら矎咲から聞いた、川村さんが亀岡で芋たずいう『星の山』に䌌おいた。その光が映っおいる川はたさに  『星の川』だった。

い぀の間にか矎咲が隣で笑っおいた。川村さんの顔も芋えた。

「倩神川の蛍  やっず戻っおきたのね」

蛍の舞は神聖な神楜のようにも芋えた。

「本圓に綺麗ね」

「明日は束尟橋を枡っお、束尟倧瀟にお参りしお、嵐山の法茪寺に行こうね。今なら、倧舞台からの桜に囲たれおいる枡月橋が芋えるからずおも綺麗よ」

「桜」

「うん。今、京郜は桜が満開よ」

「  今  春なの春なのに蛍」

 

いきなり蛍の光が消えた。矎咲も川村さんもいなくなった。真っ暗の䞭、川の流れる音だけが静かに聞こえた。

「矎咲 どこなのいたずらしないでよ」

その瞬間だ぀た。無数の蛍の矀れが私の方に䞀斉に飛んできた。それは、真倜䞭の儚く優しい光ではなく、目が焌けそうな痛みたで感じさせる匷熱な光だった。

その光は高熱が䞋がらなかったあの時、真倜䞭に私が芋た光ず䌌おいた。熱が䞋がっおからも䞀幎近く、日差しを济びる事が出来ず、䜓育の時間はい぀も芋孊だったあの頃、光は私にずっお恐怖そのものだった。

「莉、倧䞈倫」

「矎咲  」

「どうしたの」

「光が  あの、ホタルの蛍が  」

ふず呚りを芋るず、目の前に星空が広がっおいた。絶えなく点滅する星々は「倧䞈倫」ず私に優しく囁いおくれた。矎咲の事、母の事、倧孊の事が次々ず過ぎおいた。涙が出た。

 

泣きながら  目が芚めた。時蚈の針は二時を回っおいた。カヌディガンを矜織っお、ベランダに向かっおいる郚屋の窓をゆっくり開けた。冷たい颚が流れ蟌んだ。京郜の春の真倜䞭の颚は思ったより冷たく感じた。

窓から芋える月は綺麗だった。月の光にホタルの光の残像が重なった。重なったその光の䞋で、満開の桜が静かに花びらを散らせおいるのが芋えた。闇に散る桜は涙に䌌おいる感じがした。

 

その時だった。穏やかだった倜の颚が急に匷くなった。静物のように静たっおいた倖の颚景が䞀倉しお倉わった。颚の音ず桜の花びらが散乱しはじめた。行先を芋倱った桜の花びらが䞀片  倜空を舞い䞊がり、窓に滑り蟌んで、手のひらに安着した。ふず、窓の倖に目を向けるず無数の小さな明かりが灯り始めた。

※孊習発衚䌚の『走れ、メロス』朗読劇に぀いお

『心をはぐくむ小孊校劇』小峰商店

朗読劇「信は真なりわれは信じる」脚色・山本茂男 を参考にしたした。

 

※蛍に関する匕甚に぀いお

「蛍狩ず云うものは、埌になっおからの思い出の方がな぀かしいよう」

「幜鬌めいた蛍の火は、今も倢の䞭にたで尟を曳いおいるようで、県を぀ぶっおもありありず芋える」

『现雪』䞭公文庫谷厎最䞀郎 から匕甚したした。

 

※京郜の川の名前に関する内容は以䞋の本を参考にしたした。

①倩神川

『京郜垂の地名』平凡瀟

②桂川・名神川

『京郜の山ず川』䞭公新曞 鈎朚康久・肉戞裕行