kyotostory🌞

あなたの知らない京郜

【京を曞く】金朚犀の花が咲くたで運呜の再䌚ず消えゆく金朚犀の残銙

今朝、新聞で「倧宮亀通公園」ずいう名前を芋぀け、ずっず前に曞いた小説『金朚犀の花が咲くたで』のこずを思い出したした。
䞻人公が新しい町で友だちず再䌚し、お匁圓を広げる――その䜕気ない堎面に、私はこの公園を登堎させおいたす。

この物語は、䞭孊時代の同玚生だった二人が倧人になっお再び出䌚うお話です。

育児に疲れ、心の眮き堎所を倱いかけおいた䞻人公が、懐かしい友人ずの時間の䞭で少しず぀呌吞を取り戻しおいきたす。けれど物語の途䞭で、その友人は急に亡くなっおしたう。

小説の䞭で金朚犀のシロップを䜜る堎面があり、その颚景はのちに京郜文孊賞に応募する際、そのたた入り蟌みたした。

この物語ず同じ季節から生たれた歌「金朚犀の花が咲くたで」もありたす
よろしければ、小説ずあわせおお聎きください。
▶ 歌ペヌゞはこちら

この䜜品は、ある文孊賞で予遞萜ちした物語でもございたす。

二週間ほどで䞀気に曞き䞊げた䜜品で、時間もなく、本来はもっず長く続いおいくはずの内容を、限られた文字数に合わせるため、結末がどうしおも唐突になっおしたいたした。

未熟な物語ではございたすが、お読みいただけたしたら幞いです。

金朚犀の花が咲くたで

ゞュリアロバヌツに䌌おいるず蚀われた自慢のヘアスタむルは邪魔に過ないずいう事を切々感じたのは聡(さずし)の初めおの転勀先ずなった京郜に来お間もなくの時だった。

聡ず結婚しお䜏み始めた堎所は実家からそこたで遠くなく、それ故、育児は苊でもなく、楜しみの方が倚かった。それが䞀倉したのは京郜に来おからだ぀た。

転勀したばかりの聡は垰りも遅く、週末も仕事が倚かった。リビングや郚屋には段ボヌルが眮かれたたたで、子䟛が生たれおから䞉幎近く続いた毎日のルヌチンが急に倉わっおしたった私は、埐々に心身ずもに疲匊しおいき、育児に芆われる日々が続いた。

その挙句、私が真倜䞭にハサミで長い髪をサクサク切るのを芋かけお私の手を止めた聡は「ちょっず気晎らしでもしたら明日は私が薫莉(かおり)に昌ご飯を食べさせるから、倕方たで私に任せおいいよ。ここから䞊賀茂神瀟なら歩いおも行けるから、行っおみたらどう」ず話しおくれた。

それは私も知っおいた。䞊賀茂神瀟は聡ず䞀緒に来た神瀟だった。倧孊院の卒論テヌマが『源氏物語』だった私は、なかなか論文が進たず、悩んでいた。

その時、サラリヌマンだった聡は「今床、京郜に行っおみないか 十月はただ玅葉は早いけど、人が少ないからむしろいいかもしれない。序に玫匏郚ゆかりの聖地巡りでもしたら」ず私を誘った。

聡ずは高校からの付き合いで、お互い気が合った。倧孊も䞀緒だった圌は、私の初恋の盞談圹でもあった。

その秋、私は聡ず䞀緒に京郜に来お、北倧路堀川にある玫匏郚の墓ず倧埳寺の近くにある雲林院に行った。信長奜きの聡のため、建勲神瀟にも足を運んで、垰りは今宮神瀟の参道で「あぶり逅」を食べた。

翌日は玫匏郚が歌を残したず䌝わる片山埡子神瀟ず玫匏郚の歌碑がある䞊賀茂神瀟にも行った。

しかし、私の目が留たったのは、名神川が流れる瀟家町で甘い銙りを挂う金朚犀だった。

翌日の朝、垜子を深くかぶった私は、聡の「ゆっくりしおおいで」ずいう声を埌に家を出た。

マンションから出お、少し歩くず綺麗に敎備された広堎があった。「鎚川公園を利甚する人のため」ずいうこの広堎を薫莉は公園ず呌んで、毎朝、『おかあさんずいっしょ』が終わるずすぐ、「ママ、公園」ずねだった。

薫莉ずい぀も䞀緒だった時はあんなにも䞀人の時間が欲しかったのに、いざ、䞀人になるずちっずも嬉しくない。䞍思議だな  ず思いながら歩き続けるず西賀茂橋に出た。

矎容宀は予玄を入れず、気の向くたたに探す事にした。橋を枡るず西賀茂車庫の向こう偎に矎容宀があったが、人が倚くお入る気にならなかった。

かなり歩いた気がしたが、なかなか矎容宀は芋぀からず、諊めかけたその瞬間(ずき)だった。広い庭の隅っこに『金朚犀矎容宀』ずいう小さな看板が目に入った。

庭の奥に倧きな朚が芋えた。庭を進むず、䞀戞建おの䞀階に『金朚犀矎容宀』ず曞いおあった。私は「ここにしよう」ず決めお、ベルを抌した。

出おきたのは、メンズカットがよく䌌合う䞉十代半ばの女性だった。宀内には鏡に向けたむスずシャンプヌ台が䞀぀だけで、壁に眮かれた棚にシャンプヌずリンスらしきものが眮いおあるのが芋えた。

「いらっしゃいたせ。銙月(か぀き)ず申したす」

銙月ずいう名前で、圌女を目䞊げたその瞬間、人生には、このような偶然もあるものかず思った。私の目の前に立っおいるのは「あの銙月」だった。

「茉(た)愛(い)」

「采(こず)晎(は)」

銙月茉愛ずは同じ䞭孊校だった。「あの銙月」ずいう衚珟には色んな意味が含たれおいた。茉愛は誰もが振り返るほどの矎しい子だった。

それゆえ、文化祭や䜓育倧䌚では思わず自分の子䟛から茉愛ぞカメラを向けおしたう芪も少なくなかった。

その茉愛ず私が぀ながったのは郚掻だった。同じ吹奏孊郚で、私はパヌカッション、茉愛はフルヌトだった。パヌトリヌダヌだった私は朝緎も誰より早く孊校に着いお、攟課埌も遅くたで緎習に励んだ。

文化祭の前日だった。私はい぀もより早く孊校に向かった。孊校には北の入り口蟺りに金朚犀が怍えられおいた。その金朚犀は高さが十メヌトル近くの巚朚で、秋になるず孊校の前にある暪断歩道にもその銙りが挂うほどだった。

金朚犀は枝ず葉が倚く、倏は日陰にもなるので、その䞋にはベンチが䜕個か眮かれおいお、秋には金朚犀の花がベンチのすぐそこたで花を垂らしおいた。茉愛を芋かけたのはそのベンチだった。

茉愛は金朚犀の花びらを摘んで小さな袋に入れおいた。茉愛を私の家に招埅したのは文化祭が終わっおから数日埌の事だった。

 

     

  

秋になるず、母はい぀も金朚犀のシロップを䜜っおいた。金朚犀の花をいっぱい摘んで、その小さい花びらから枝や茎、ほこりを取った。

私が初めおシロップを䜜ったのは幌皚園に入っおからだった。花びらに付いおいる緑の茎を取るのは、シロップを䜜りで䞀番手間がかかる䜜業で、私は倧の苊手だった。

䞀時間近く、目を现めながら茎ず花びらを分けるず芪指ず人差し指あたりに色が付いお埮かに花の銙りが残った。䜕回掗っおも、その色ず銙りは消えなかった。

しかし、小孊䞉幎生の時、花びらず茎を分けおいた私の指先に緑の虫が混じり蟌んで、私が倧隒ぎしお以来、母は私が孊校に行っおいる間にシロップを䜜るようになった。

そのシロップを初めお他の人に枡したのが「あの銙月」だった。

 

       

 

「お母さんはお元気 采晎のお母さんが䜜るシロップ、今も忘れられないよ」

無惚な姿になった私の髪をスプレヌで濡らしながら茉愛が蚊いた。

「盞倉わらず、今も元気に䜜っおるよ」

「茉愛のお母さんは」

䞭孊䞉幎生の時、茉愛から母芪の病気で京郜に行く事になったず聞いたのを思い出した。

「京郜で長く単身赎任だった父には女がいたの。母はずっず前から知っおいたらしい。うちの母、バカみたいに優しい人で、死ぬ前にあの女を呌んでずいうのよ。意識もはっきりしないくせに。父が静かに病宀を出お、戻った時はその女ず䞀緒だったの」

「その方は京郜の方」

「枅氎さんず蚀うけど、凄く綺麗で気品もある京矎人だった。おばんざいのお店をやっおお、そこで父ず出䌚ったらしい。母が私の事を頌んだのは父ではなく、枅氎さんだったの。枅氎さんは母ず倉わらないほど私に尜くしおくれたのね」

「玠敵な方だね」

「せっかく䌚えたのに、暗い話でごめんね」

「そんなこずないよ。あの、茉愛、今も金朚犀が奜きなの」

「匕越しする時、私に枡した金朚犀の枝、挿し朚にしお育おおたの。䞀幎近くで根は出たけど、枯れおしたっお。でも、その幎、䞊賀茂神瀟の瀟家に怍えられおいる金朚犀の枝を頂く事になったけど、その枝がね  あそこの朚、芋える あの朚なの。毎幎、花をたくさん咲いおくれるよ」

「そういえば、瀟家町に金朚犀が倚く怍えられおいるのが印象的だったな。さお、挿し朚からそこたで成長するなんお、すごい。金朚犀、私も育おおみようかな」

「いいんじゃない 今床はうちの朚からの挿し朚だね。そういえば、家はどの蟺」

「西賀茂橋を枡っお巊に進んで、その奥のマンション」

「マンションで金朚犀を育おる぀もり 倧きくなるよ」

「そうなるずいいな。たずは根がちゃんず出るかどうかね」

「采晎、西賀茂橋近くに西賀茂車庫があるけど、行った事あるバスがたくさんあるから、車奜きのうちの子は保育園の垰りによく行かされたの」

「通った事はあるけど、山がちょっず  」

「五山送り火の船圢なの」

「え  こんなに近くで芋えるんだ」

「西賀茂橋あたりからだず船圢ず倧文字の二぀の送り火が芋えるの」

「すごいね。でも、橋のあたりは倧混雑じゃない」

「いいえ、ここは芳光客が殆どいないから、ゆっくり楜しめる感じかな。今幎䞀緒に芋ようね」

シャンプヌを終えた茉愛は私の髪を癒しおあげるかのように優しくドラむダヌをかけお、䞁寧に持ち䞊げ、ハサミでバランスをずりながら蚊いた。

「明日は予玄もないし、䞀緒に花芋に行かない」

「近くに花芋のおすすめの堎所ずかある」

「あり過ぎお困るぐらいよ」

茉愛が笑った。

「それはそうだね、京郜だもの」

「桜のシヌズンになるず、どこに行っおも人でいっぱいな感じだけど、京郜にはゆっくり桜を楜しめる堎所が割ず倚いよ」

「穎堎のこず」

「そう。神光院(じんこういん)も桜ず玅葉の隠れ名所なの。神光院は西賀茂車庫から近いし、采晎のマンションからだず自転車で十五分ぐらいかな。参道の桜も綺麗だけど、私は境内の枝垂れ桜の方が奜き。䞊賀茂神瀟ず倧宮亀通公園、ちょっず遠いけど平野神瀟の枝垂れ桜もおすすめよ」

「  倧宮亀通公園」

「公園の䞭に暡擬道路や信号機があるの。倧宮亀通公園は京郜唯䞀の亀通公園よ。子䟛たちが亀通ルヌルを孊べるし、自転車の緎習もできるから、遠くから来る子連れも倚いの」

「そうなんだ」

「それなら、明日、倧宮亀通公園はどう あ、、采晎、お子さんはうちは䞃才、名前は矎銙(みか)」

「うちはもうすぐ䞉才、名前は薫莉」

茉愛から枡された手鏡にはきれいに敎った髪が映し出されおいた。

倧宮亀通公園は平日なのに芪子連れが倚かった。初めお䌚う茉愛に薫莉はすぐに懐いお、よく笑った。

園内は桜も倚く、䞭でも圌岞枝垂れ桜は芋応えがあった。

ここたで立掟なのに、衚でもなくこのような堎所で静かに花を咲かせる桜は初めおだった。

「私が矎銙ずよく行くのはあそこ、薫莉ちゃんもきっず奜きだず思う」

少し登るずひっそりず眮いおあるブランコが芋えた。薫莉は「ブランコ」ず喜んだ。ブランコの近くにはベンチが二぀眮かれおいた。

そのベンチで茉愛が取り出したお匁圓には、みずみずしい緑の葉で党身を巻かれたおにぎりずだし巻き卵に挬物、ミニトマトずブロッコリヌ、マカロニサラダが芋栄えよく䞊んでいた。

「これ、なんの葉」

「すぐきの葉」

「すぐき」

「カブの䞀皮だけど、䞊賀茂神瀟の瀟家で栜培したのが始たりらしい。今も栜培できるは䞊賀茂蟺りだけず聞いた事がある。すぐき挬けは千枚挬け、しば挬けず共に京郜䞉倧挬物ず蚀われおるの」

「そうなんだ」

「すぐき挬けは䞀本䞞ごずで売っおいる事が倚く、葉は倧䜓おにぎりか、刻んでビビンバにしたりするの。矎銙はすぐき葉のおにぎりが倧奜きやけど薫莉ちゃんはどうかな食べおみお  」

 

      

 

「お母さん、倚賀(たが)良屋(らや)で花芋団子を買っお来るから、ここでちょっず埅っおお」ず話しお薫莉は走っお行った。

 

æ·±(みぞ)æ³¥(ろが)æ± (いけ)児童公園は茉愛ず䜕回か来た事があった。

「私、あそこのマンションに䜏んでたの」

「え い぀の話」

「倧昔  䞉階だったけど、秋になるずベランダから金朚犀の花がたくさん咲いおいるのが芋えお、掗濯物にその銙りが残ったりもしお  金朚犀の花を眺めながらよく采晎のこずを思い出したよ」

そのマンションの䞉階で四月から薫莉が䞀人暮らしを始める事になる。偶然ずいうより䞍思議な気がした。

暫く公園を眺めおいた私は、シヌ゜ヌの前のベンチに座った。

茉愛が初めお私の前で煙草を吞ったのはこのベンチだった。幟床も茉愛ず䌚ったのに、私はその日、初めお茉愛がヘビヌスモヌカヌずいうこずを知った。

茉愛に聡の転勀が決たった事を話すず、「金朚犀の花が咲くたで埅っおるから、遊びに来おね」ず話しおくれた。

金朚犀の花が咲く頃、私ず薫莉は茉愛の矎容宀に予玄を入れお京郜に来た。

そしお、窓越に挂う金朚犀の花の銙りを楜しみながら茉愛の「お任せカット」の仕䞊がりをドキドキしながら埅った。

しかし、久々に行った歯科で茉愛の䜓に異垞が芋぀かった。粟密怜査の結果は喉頭癌だった。昚幎の春、倧きな手術を受けた茉愛は退院しお回埩に向かうように思えたが、䜓調が急倉し、垰らぬ人ずなった。庭の金朚犀の花は満開だった。

 

茉愛がいない京郜はモノクロで静かな気がした。秋の京郜にはもう来れないず思ったその時だった。

誰もいない目の前のシヌ゜ヌがゆっくりず䞋に向けお降りおきた。そしお、ほのかに金朚犀の銙りが挂った。戞惑いながら呚りを芋回すず、そこに茉愛がいた。

涙が溢れた。ありがずう、茉愛。そうね。䜕も倉わっおいない。茉愛はこれからもずっずここにいるし、茉愛の矎容宀には矎銙ちゃんがちゃんず受け継いおいる。瀟家の金朚犀も  。

「茉愛、埅っおお、たた秋に京郜に来るから。金朚犀の花が咲くたで」

茉愛の姿は金朚犀の残り銙りず共に消えおしたった。

 

「お母さん、お埅たせ」

近くから薫莉の声が聞こえた。